今回は私が所有する1991年製ゴールド・トップ(以下「1991 GT」)と初代キャナリー・イエローのTAKモデル(以下「TAK CY」)を数値で比較してみたいと思います。
参考にしたのはヴィンテージ・レスポール研究本として有名な『ザ・ビューティ・オブ・ザ・バースト』(以下「BTOB」)の巻末の数値比較表で、同様の項目を計測すると共に同書に掲載のヴィンテージ・レスポールの年代ごとの平均値も併せて載せています。
目次
計測ポイント
写真:1997年発行 リットーミュージック・ムック『ザ・ビューティ・オブ・ザ・バースト』P.221
計測は上の写真のa.~h.の寸法をデジタルノギスで、重量はデジタルスケールで行っています。
計測値と考察
1991 GT | TAK CY | 1958年製 平均 (※1) |
1959年製 平均 (※2) |
1960年製 平均 (※3) |
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a. ナット幅 | 42.8 mm | 43.3 mm | 43.0 mm | 43.0 mm | 42.9 mm |
b. ネック付け根幅 | 53.9 mm | 54.6 mm | 54.7 mm | 55.1 mm | 54.5 mm |
c. ヘッド厚(トップ) | 14.9 mm | 14.9 mm | 14.7 mm | 14.9 mm | 14.8 mm |
d. ヘッド厚(ボトム) | 14.9 mm | 16.2 mm | 15.8 mm | 15.8 mm | 16.0 mm |
e. ネック厚(1フレット) | 20.8 mm | 20.8 mm | 22.9 mm | 22.3 mm | 21.1 mm |
f. ネック厚(11フレット) | 24.3 mm | 23.5 mm | 25.1 mm | 24.5 mm | 22.7 mm |
g. ボディ厚(ネック) | 50.9 mm | 50.9 mm | 49.8 mm | 50.1 mm | 50.9 mm |
h. ボディ厚(エンド) | 50.9 mm | 50.9 mm | 47.8 mm | 47.9 mm | 48.2 mm |
重量 | 4051 g | 4479 g | 4109 g | 3870 g | 4009 g |
(※1、2、3):『BTOB』巻末の数値比較表から算出した平均値
今回計測した項目は「それぞれの幅または厚みとその差分」が重要な点で、差分はテーパーの付き具合を表しています。
a. ナット幅/b. ネック付け根幅
TAK CYがヴィンテージとほぼ同様の数値なのに対して、1991 GTはヴィンテージでは最も幅が狭い1960年製よりもさらにネック付け根幅が狭くなっていて、これがネックが細く感じる要因となっていて当時のリイシューの特徴です(かつて所有していた複数の同年代のリイシューも同様の傾向でした)。
c, d. ヘッド厚(トップ/ボトム)
ヘッドの厚みはボトムからトップにかけて補強する目的で、ヘッド先端に向かって薄くなるようにテーパーが付けられています(ただし一部クラフトマンの方はこの形状と効果に疑問を持たれているようです)。
TAK CYはヴィンテージと同様にテーパーが付けられていて数値もほぼ同様となっていますが、1991 GTはテーパーが付けられておらず、トップの厚みがボトムまで採用されているのでヘッドがやや薄く感じます。
e, f. ネック厚(1フレット/11フレット)
ヴィンテージは1958年製はかなり太く、1959年製はやや薄く、そして1960年製はある時期からかなり薄くなっていきます。テーパーの付き具合も1960年製になるとかなり抑えられているのが分かります。
TAK CYはテーパーの付き具合はヴィンテージに近いですが厚みは「1959年製と1960年製の中間」といえるような数値になっています。
一方で1991 GTは1フレットの厚みこそかなり薄いですが、11フレットは1959年製とほぼ同様の厚みとなっていて最もテーパーが付けられていて、この点からもTAK CYとは全くの別物のネック形状であることが分かります。
g, h. ボディ厚(ネック/エンド)
ここでもヴィンテージはどの年代もテーパーが付けられていますが、一方で1991 GT、TAK CYはテーパーが付けられていないのが分かります。
奇しくも1991 GTとTAK CYは同じボディ厚となっていて、かつて所有していた1993年製の1957ヒストリック・コレクション(以下「ヒスコレ」)にはテーパーが付いていたことから、TAK CY開発に際して1991 GTを参考にしている可能性がありそうです。
重量
1991 GTは約4.0kg、TAK CYは約4.5kgと大きく差がありますがここは個体差の範疇で、約4.5kgの1991 GT、約4.0kgのTAK CYも見たことがあります。
ヴィンテージも同様に個体差で重いものも存在しますが、総じて軽いものが多いようです。
おわりに
以上、数値で比較してきました。1991 GTはどの項目もヴィンテージとは似ておらず、リイシューと銘打たれているもののその後のヒスコレ程の再現度ではないことが分かります。
対してTAK CYはヴィンテージ寄り(というか当時のヒスコレ)の数値が多いように感じられ、1991 GTとはそもそもの設計が違うのが分かると思います。特にネック形状はTAK CY発表当時は「1991 GTを参考にやや薄く仕上げた」とされていて以降の専門誌でも同様の説明が続けられていますが、実際は「厚み、幅、テーパー具合」のどれを取っても似ていないのがわかると思います。
今回は「数値で見る違い」ということで参考値としてヴィンテージも加えているため「再現度」という観点からの考察を避けられませんでしたが、1991 GTとTAK CYは別設計(別コンセプト)ではあるもののどちらも魅力的なギターであることには変わらない点を強調したいと思います。