2022年7月15日に松本さんの最新シグネチャー・モデル『Gibson Tak Matsumoto 1955 Les Paul Goldtop』が公式発表されると同時に大きな反響を呼んでいて、待ち望んでいたファンの多さを改めて感じさせられます。
今回はそのベースとなった、近年松本さんが多用している1955年製のヴィンテージ・レスポール・ゴールドトップ(以下「55GT」)について見ていきます。
これまでの専門誌、ライブ映像、2021年5月10日発売の『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』(以下「ギターブック」)で確認できた内容に加え、私の検証・考察に回答いただく形で55GTのメンテナンス・カスタマイズを行った職人さんに確認済の内容をまとめていますが、一部に個人的推測もありますので誤報もあると思いますがご容赦ください。
当時のバーブリッジ・レスポールの詳細な仕様や歴史については省略していますので、ムック本『ギブソン・ゴールドトップ・プレイヤーズ・ブック(2021年発行リットーミュージック)』などの書籍やネット上の実機の写真を参照してください。
なお、一部の項目では最新シグネチャー・モデル(以下「TAK1955」)の仕様にも触れています。
2022年2月時点での予想記事も併せてご覧ください。

余談ですが、TAK1955の紹介動画では楽曲ごとに「TAK1955→55GT→TAK1955→55GT」の順で登場することに気付きましたか?
全部TAK1955だと思われた方も多いようですので動画としては大成功だと思います(笑)
また、55GTとTAK1955のサウンドの違いも分かると思いますのでぜひご視聴ください(ただし、それぞれ別の公演ですので使用機材やセッティングの違いはあると思います)。
目次
あらまし
写真:リットーミュージック『ギター・マガジン』2020年9月号 P.192
2019年発表のB'zのアルバム『NEW LOVE』や「B’z LIVE-GYM 2019 -Whole Lotta NEW LOVE-」でも大活躍したジェフ・ベックが愛用していた「オックスブラッドにリフィニッシュし、ハムバッカー仕様に改造されたバーブリッジ仕様のレスポールを再現したモデル」を気に入ったことがきっかけで「自分でも同じことをやってみよう(出典:リットーミュージック『ギター・マガジン』2020年9月号 P.190)」と思い購入したとのことです。
改造完了時の写真はカスタマイズを担当された楽器店のSNSに投稿されていました。
下記記事を参照してください。
【B’z機材】話題のバーブリッジ仕様のゴールド・トップは2本あった!
ハムバッカー仕様への改造に際して搭載されたヴィンテージの"P.A.F."は「クリーンよりも歪みがいい感じなんですよ(出典:リットーミュージック『ギター・マガジン』2020年9月号 P.190)」とのことで、2020年発表の松本さんのソロアルバム『Bluesman』でもディストーション・サウンドのメイン機として全13曲中8曲で使用された他、配信ライブ「B'z SHOWCASE 2020 -5 ERAS 8820- Day1~5」でもDay2の「The Wild Wind」で使用されました。
また、現在開催中の「B'z LIVE-GYM 2022 -Highway X-」でもメイン機として大活躍するなど55GTを好んでいる様子が窺えます。
カラーリング
写真:プレイヤー・コーポレーション『Player』2020年9月号 P.25
写真:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2020年9月号 P.20
元々オールゴールドだった塗装は入手時点でネック裏が剥がれていて且つ全体的にくたびれた状態だったためカスタマイズに際してオール・リフィニッシュされていて、ネック裏のみ敢えて入手時を再現しているとのことです。
くたびれた状態の写真もこのギターをカスタマイズした楽器店のホームページやSNSとは別のところに存在していますが、そちらには松本さんの名前が出ていないため直リンクは控えさせていただきますので興味のある方は探してみてください。
ブリッジ&スタッド
※Oxblood は松本さん所有機 #10
写真上:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2020年9月号 P.20
写真下:同掲著 P.22
※1954年製GT #4-0673
写真:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2020年9月号 P.19
バーブリッジの材質はアルミニウムで、後年のテールピースと同様にしっかりと厚みがあります。ちなみに松本さん所有の1954年製ゴールドトップ #4-0673 (以下「54GT」)のバーブリッジは上の写真のように薄めで、これは55GTよりさらにネック仕込み角が浅いことが要因とされており、初期のバーブリッジ・レスポールの特徴です。
スタッドは恐らくオリジナルのスチール製で、6弦側の錆が目立ち、長さもバーブリッジ期の特徴であるやや短めのスタッドと推察されます。
また、ブリッジの傾きが現行のヒストリック・コレクション(以下「ヒスコレ」)と比較してややキツめで、ヴィンテージのバーブリッジ・レスポール全般に見られる特徴です。
ノブ&ポインター
写真:プレイヤー・コーポレーション『Player』2020年9月号 P.25
ノブはゴールドのバレルノブ (スピードノブ)でポインターも装着されたままのオリジナル状態で使用しています。
1991年製ゴールド・トップ #1-5283 や初期のシグネチャー・モデルをはじめとしてポインターなしが松本さんのトレードマークでしたので嗜好の変化が窺えます(かつてのポインターは先端が鋭利でうっかり指をひっかけるとケガをするなどの問題があったことも大きいですね)。
ピックアップ&エスカッション
写真:プレイヤー・コーポレーション『Player』2020年9月号 P.25
ピックアップはフロント・リア共に1960年製のES-175から取り外されたヴィンテージの"P.A.F."を搭載していて、カスタマイズを担当された楽器店から譲り受けたとのことです。
また、リアピックアップはジェフ・ベックの愛機と同様にバーブリッジ寄りの配置が再現されていて、フロントピックアップは指板エッジからやや離れているため隙間が目立つ配置となっています。
ちなみにカスタマイズ中の写真からピックアップ・キャビティは一度完全に埋めた後で切削しているのが確認されています。
リアエスカッションはショートタイプ!
写真:B'z OFFICIAL YouTube CHANNEL『Tak Matsumoto "Bluesman" YouTube Live』34分08秒
エスカッションはフロントは一般的なタイプですが、リアはよく見ると「フラットトップ・カーブドボトム仕様のショートタイプ」が採用されていて、バーブリッジ期の特徴であるネック仕込み角の浅さが要因となっています(トールタイプだと弦とエスカッションが干渉してしまい、弦高を適正に調整できないため)。ファンクラブ会報にネック仕込み角の浅さがよくわかる写真がありますのでお持ちの方は確認してみてください。
ちなみにTAK1955はヒスコレ準拠のネック仕込み角のためトールエスカッションが採用されています。
ピックアップ位置 (参考写真)
※参考写真(オックスブラッドと55GTのリアピックアップは同位置)
写真左:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2019年11月号 P.179
写真右:同掲著 P.180
1991年製ゴールド・トップ #1-5283 との比較写真からもわかるように、ジェフ・ベック所有機と同様にリアピックアップがスタッドにかなり接近して取り付けられているのが再現されています。
これがややタイトな鳴りで高域寄りなサウンドを生み出す要因のひとつになっていて、松本さんが多用するようになったのは「バーブリッジ+リアピックアップ位置」から生み出されるサウンドが気に入ったからではないかと思っています。
TAK1955はヒスコレ準拠の配置
TAK 1955
写真:B'z OFFICIAL YouTube CHANNEL『B'z Live from AVACO STUDIO "Calling"』5分20秒
TAK1955のピックアップはフロント・リア共に"BurstBucker Pro Alnico 5"を現行のヒスコレに準拠した配置になっていて、サウンド的に汎用性を持たせる、あるいは既存のボディや生産ラインを流用することで販売価格を抑えるなど何らかの狙いがあったのではないかと思います。
54GTのリアPUもブリッジ寄り!
54GTと55GT
写真 (54GT):2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.20
写真 (55GT):同掲著 P.22
54GTと56GT
写真 (54GT):2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.20
写真 (56GT):同掲著 P.24
ところで55GTの改造にあたり参考にしたジェフ・ベック所有のオックスブラッド・レスポールは「リアPUの上部ラインを基準に下方向ザグリ加工を行なったために、通常よりもブリッジ側によるという特異な仕様(出典:音楽情報サイト BARKS 2009年2月1日投稿記事 https://www.barks.jp/news/?id=1000046715)」とされていますが、54GTと55GTを重ね合わせると54GTのP-90ピックアップと55GTのP.A.F.の中心線がほぼ一致していることが分かり、これはP-90ピックアップのザグりを上下に拡張していることを意味します。
ということは54GTのリアピックアップは元々ブリッジ寄りの配置で、同じP-90仕様の1956年製ゴールド・トップ (以下「56GT」)と比較すると56GTはややネック寄りの配置となっていて、ムック本『ギブソン・ゴールドトップ・プレイヤーズ・ブック(2021年発行リットーミュージック)』やネット上に存在するヴィンテージ・レスポールを確認するとヴィンテージのバーブリッジ・レスポールはリアピックアップがブリッジ寄りの配置が標準仕様と推察されます(確認できた範囲ではチューン・オー・マティック仕様に切り替わる過渡期と思われるバーブリッジ仕様にはネック寄りに配置された個体もありましたので、全てのバーブリッジ・レスポールがブリッジ寄り配置ということではないようです)。
フレット
写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.22
フレットはカスタマイズの際に太めで背の高いタイプにリフレットされています。松本さんはこのタイプのフレットが好みのようで、リフレットされている多くの個体が同傾向のフレットです(あくまでも傾向であり、細めのタイプにリフレットされている個体もあります)。
ちなみにTAK1955はリフレットされた55GTを再現しているためオーバー・バインディング仕上げになっています(下の写真参照)。
※TAK 1955
写真:2022年 ギブソン・ブランズ公式ホームぺージ (https://gibson.jp/news-events/18334)
ピックガード&ビス
写真:プレイヤー・コーポレーション『Player』2020年9月号 P.25
ピックガードはオックスブラッドのレスポールと違い、リアエスカッションとの隙間は敢えて再現していないようです。
ブラケットとの固定ビスはマイナスビスが採用されていて、オリジナルをそのまま使用しています。
トグルナット&プレート
写真上:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.22
写真下:同掲著 P.20
トグルナットはオリジナルは写真下のようにフラットなリング状ですが、現行品と思われるすり鉢状のタイプに交換されています。
スイッチプレートはこの時期特有のフォントです(アフターマーケットでは複数のメーカーからレプリカが販売されています)。
ジャックプレート
※TAK1955 (ギブソン純正品)
写真:2022年 ギブソン・ブランズ公式ホームぺージ (https://gibson.jp/news-events/18334)
ジャックプレートはオリジナルの樹脂製 (クリーム色)から国産の金属製に交換されていて、松本さん所有のヴィンテージ・レスポールの大半が国産の金属製ジャックプレートに交換されています(厚み、カーブがギブソン純正品とは違います)。
コンデンサー (参考写真)
※参考写真 (55GTではありません)
写真:2021年発行 リットーミュージック『ギブソン・ゴールドトップ・プレイヤーズ・ブック』P.23
TAK1955は現行のヒスコレで採用されている"Luxe: Bumble bee (0.022uF)"に代わり、1950年代前半に採用されていた"Grey Tiger"(のレプリカ)が搭載されています。
ただし、グレイタイガー以外のコンデンサーが搭載されている個体も存在することが確認されていること、55GTに搭載のコンデンサーは公表されていないことから実際に搭載されているコンデンサーは不明です。
バンブルビーとグレイタイガーのサウンドの違いは下記動画を参照してください(トーン=10、7で収録されています)。
バックプレート
写真:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2020年9月号 P.20
ボディ・バックがナチュラル・フィニッシュの個体と同様にブラウンが採用されています。
ちなみにダーク・バックの個体はブラックのバックパネルとなります。
ペグ
写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.22
ペグはクルーソン製が採用されていて、当時の特徴である"KLUSON DELUXE"刻印が入っていない所謂「ノーライン」をそのまま使用しているようです。
余談ですが、松本さん所有のヴィンテージ・ギブソンは実用性の観点から多くの個体が購入当時(1990年代)のクルーソン製ペグに交換されています。
ロゴ&ナット
写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.22
ロゴはやや低めに配置された所謂「ローワー・ロゴ仕様」となっていて、ロゴの形状や「iドットの位置・サイズ」がヒスコレと明確に違っていて、ヒスコレにて未だに再現されていない仕様のひとつです(ヒスコレは1959年仕様に統一されていて他の年代のモデルは1959年仕様を流用しているため)。
また、"Les Paul MODEL"表記はかなり擦れていて、上の写真ではかろうじて判別可能です。
ナットはリフレットに際して交換されていて、オリジナルと同様のデルリンが採用されています。
おわりに
今回は近年松本さんが多用している55GTについてまとめました。
TAK1955が55GTの復刻モデルということで改めて注目度が上がったと思いますが、より深く知りたい方はムック本『ギブソン・ゴールドトップ・プレイヤーズ・ブック(2021年発行リットーミュージック)』が大きな手助けになりますのでオススメします。