【B’z機材】1991年製ジミー・ウォレス・モデルとゴールド・トップ:対照的な運命

今回は松本さんがB'zデビュー以降では初めて手にしたレスポールである「Gibson Custom Shop Edition Jimmy Wallace Les Paul(以下『J.W.モデル』)」とお馴染みのゴールド・トップ#1-5283(以下「GT #1-5283」)についてまとめます。

どちらも1991年製ですがGT #1-5283が現在もメインギターとして活躍する一方で、J.W.モデルが1993年の「B'z LIVE-GYM Pleasure '93 "JAP THE RIPPER"」を最後に表舞台から姿を消し、その後売却されて一般の方の手に渡るという対照的な運命を辿っています(確認されているだけでも複数回売買されています)。

私自身もJ.W.モデルに酷似した同年代の限定モデルを所有していた経験があり、最終的には松本さんと同仕様にモディファイした1991年製ゴールド・トップ の方を手元に残しましたので、個人的推測もありますがこれら2本の違いについて語りたいと思います。

Jimmy Wallace Les Paul 1991

写真:シンコーミュージック『GiGS』1993年1月号 P.14

「B'z LIVE-GYM '91~'92 "IN THE LIFE"」で初登場したJ.W.モデルの入手の経緯は「GUNS (注:GUNS N' ROSES)を演るから、じゃギブソン買おうかと(笑)、それならあれ(トラ目のスタンダード)がいいと思ってね(出典:シンコーミュージック『GiGS』1993年1月号 P.8)」ということで購入したそうです。

J.W.モデルはアメリカの有名なギター・コレクターのジミー・ウォレスがギブソン社にオーダーした特別モデルで1970年代後期から1990年代にかけて不定期に少数製作されてきました。

松本さんの所有するJ.W.モデルは1991年製で入手は1992年4月頃と思われ、当時の専門誌に掲載された広告でその姿を見ることができます(シリアルナンバーは伏せています)。

写真:リットーミュージック『ギター・マガジン』1992年6月号内広告

松本さんの所有するJ. W.モデルは上の広告中段の左から2本目の個体(黄色枠囲み内)で、個人的には最も杢目がはっきり出ている極上の個体ではないかと思います。

ちなみに当時の販売価格はほぼ3桁万円でした!

Les Paul Reissue Gold Top 1991 #1-5283

写真:シンコーミュージック『GiGS』1993年1月号 P.15

J.W.モデルを手にしたことで「原点回帰」した松本さんはお馴染みのゴールド・トップ#1-5283を入手することになります。

主な仕様はJ.W.モデルとほぼ同様ながら松本さんはこちらのGT #1-5283を特に気に入っていて、B'zのアルバム『RUN』のレコーディングに際してもGT #1-5283のみツアー先から送り返して使用していたというエピソードも伝えられています。

モディファイの変遷は別記事にまとめていますのでそちらを参照してください。

【B’z機材】1991年製ゴールド・トップ:モディファイの変遷

Jimmy Wallace Model vs. Gold Top #1-5283

写真左:シンコーミュージック『GiGS』1993年1月号 P.14
写真右:シンコーミュージック『GiGS』1993年1月号 P.15

1991年製のJ.W.モデルは当時のリイシュー(所謂プリ・ヒストリック)を基に製作されているのでGT #1-5283と共通点が多いですが、いくつかの点で特別モデルらしい仕様となっています。

J.W.モデルの特徴

  • 1. ボディ・トップ材が厳選されたキルテッドメイプル
  • 2. ボディ・バック材が厳選された軽量なマホガニー
  • 3. 塗装は「名工」トム・マーフィーが担当
  • 4. 金属製のアッセンブリーユニットなし (※時期によりユニット有りの個体も存在)

1.はそれまでのJ.W.モデルを踏襲していて、稀にフレイムメイプルの個体も存在しますがいずれもソフトメイプルを採用していて、対してGT #1-5283は恐らくハードメイプルが採用されていると思われます(私の所有する同仕様の1991年製ゴールド・トップはハードメイプルでした)。

2.は後年ギターテックが「J.W.モデルはボディが軽かった」と語っていることや中古市場に出てきた同モデルを見る限り4.0kgを切る個体が多いことから、ジミー・ウォレスが軽量に仕上げるようにオーダーしていると考えられます。対してGT #1-5283は当時の専門誌によると「かなり重い」とのことで、私が過去確認した同仕様のゴールド・トップは約4.0kg~4.5kgでしたので4kg台中盤くらいの可能性もあります。

⇒2020/3/18更新
現所有者の方から松本さんが所有していたJ.W.モデルは約3.9kgとコメントを頂きました。ありがとうございました。

3.はこの頃のJ.W.モデルはピックアップキャビティまたはコントロールキャビティ内にトム・マーフィーのサインが入っていることから確認できます。私が過去所有していたJ.W.モデルに酷似した同年代の限定モデルもトム・マーフィーのサインが入っていました。

4.はJ.W.モデルに限らず一部の特別モデルはアッセンブリーユニットが使われていないのが確認されています。ちなみにGT #1-5283もアッセンブリーユニットは外されていて、配線材、ポット、コンデンサーも交換されています(私の所有する同仕様の1991年製ゴールド・トップを松本さんと同仕様にモディファイしていただいた際に教えていただきました)。

なぜJimmy Wallace Modelは使われなくなったのか?

後年ギターテックが「ボディが軽くて思ったほど良い音ではなく(出典:2004年発行 House Of Strings出版事業室『House Of Strings Magazine Vol. 01』P.7)」と語っているのが全てかと思いますが、個人的には「軽いから音が良くない」というのは懐疑的です(想定していたレスポールの音からはかけ離れていたという意味での発言だと思います)。

私自身はかつて同仕様の1991年製ゴールド・トップを同時に2本所有していた時期がありましたが「重量が重い個体の方が音が硬くて低音が薄く、あまりレスポールらしくないサウンドだった」経験があります。

個人的な経験からは当時のリイシューで音に大きく影響しているのは「ネック仕込み角」だと思っています。ネック仕込み角がきついとブリッジ (ABR-1)がボディ上面から離れたセッティングになるのですが、このセッティングだと低域が出にくく相対的に高域が目立つ傾向があり、また音も硬くなります(ゴールド・トップ数本を含む複数の同年代、同仕様のものを所有して比較した経験からの感想です)。

松本さんの所有するJ.W.モデルの映像や写真を確認するとブリッジ位置がかなり高いので恐らくネック仕込み角がきつく、結果として(演奏に支障が出ない範囲での弦高設定だと)音が軽く感じられるのだと考えられます。それに加えてソフトメイプル・トップのためハードメイプル・トップのGT #1-5283と比較してレスポンスの違いやサウンドにやや芯が感じられないなど明確な個体差が気になり始めたのではないでしょうか(※後年"Tak Burst"でソフトメイプル・トップを復活させていることから、優劣ではなく当時の好みではなかったと言った方が良いかもしれません)。

ちなみに以前所有していたハードメイプル・トップと思われる、60sリイシューとほぼ同仕様の1991年製レスポール・クラシック (カスタムショップ・エディションのデカール入りで57クラシック標準搭載の50本限定品) は1991年製ゴールド・トップによく似たサウンドをしていましたので、トップ材の影響も大きいと思います。

余談ですが、所謂ディープジョイントを採用していないモデルはネック仕込み角のばらつきが大きいので購入に際しては十分確認が必要だと思っています。また、ディープジョイントの本来の目的は「ボディとネックを接合する際のネック仕込み角の精度安定化」というのが正しいと複数のクラフトマン、リペアマンの方から伺っています。

※ヒストリック・コレクション発表当時は殊更にディープジョイントの方がサスティーンが長く優れていると宣伝されていましたが、個人的な経験からは「一般的にギブソン・レスポールのネック仕込み角はディープジョイントが4度、ナロージョイントが5度なので前提条件が違うことからそもそもサウンドやサスティーンを比較することに難がある」と思っています。

ゴールド・トップ (#1-5283)はそれほどまでに良いのか?

ひとことで言うと「大当たりの1本」であると、1990年代にリペア・カスタマイズを担当されていた職人さんから伺っています。

実際、松本さんは「B'z LIVE-GYM Pleasure '92 "TIME"」ツアーリハーサル中に「スタジオに、楽器屋さんにレスポールを7、8本持って来てもらって、その中から選んだ(出典:シンコーミュージック『GiGS』1998年3月号 P.7)」と語っていることから「大当たりの1本」というのは想像に難くありません。

また「B'z LIVE-GYM '94 "The 9th Blues" ~Part 2~ 」のタイミングでサブ機として「音が良い」と人気のある「30周年記念ゴールドトップ 」を導入したものの、あまりにもGT #1-5283の音が良いためにほとんど使用機会に恵まれなかったというエピソードもあるほどです。

ちなみに私は1991年製ゴールド・トップを前述の職人さんに松本さん仕様にモディファイしていただいた際に「非常に良い個体なので大事にしてください」と仰っていただきましたが、それ以前・以降にも当時のリイシューをゴールド・トップ以外も含めて複数本所有した経験がありますが(試奏したものの購入に至らなかった個体だけでも数十本あります)、本当に個体差が大きいのを確認しています。

今となってはかなり年数が経っていることもあり中古市場でもなかなか当時のリイシューにお目にかかれませんが 、入手を検討する場合には十分試奏することをおすすめします(とはいっても近年再評価されていることもあり、即売れ状態なのでなかなか実機を見ることさえ難しいのが現状ですが…)。

「一時期どういじってもよい音が出ない時期があった」のはなぜ?

ギターテックが語った上述のコメントは1997年発表のB'zのアルバム『SURVIVE』の時期のことを指していて、それまではレコーディング、ツアー共にメインギターとしてフル活用でした。松本さんも当時の専門誌のインタビューで次のように語っています。

もう限界だったんでしょうね。だって、いつもメンテしている楽器屋さんももう駄目だって言ってたぐらいだから。

出典:シンコーミュージック『GiGS』1998年3月号 P.8

限界まで達してしまったということで『SURVIVE』のレコーディング時期にボディ・トップのリフィニッシュを含む大がかりなメンテナンスが行われていて、松本さんは手元に戻って来たときの様子を次のように語っています。

でもゴールド・トップはリフィニッシュしたら、すごく良くなりましたよ。帰って来たばっかりの時は、やっぱりちょっと駄目だったんだけど。リハーサルで使っているうちにだんだんよくなってきた。

出典:シンコーミュージック『GiGS』1998年3月号 P.8

ツアーのリハーサルの時点で戻ってきたんだけど、そうするとやっぱりあのギターが一番好きかなって思う。ネックの感じや音とか、一番しっくりくる。

出典:リットーミュージック『ギター・マガジン』1998年6月号 P.16

この松本さんのコメントからも今も時々ネット上で話題になるリフィニッシュしたから音が悪くなって(気に入らなくなって)使わなくなったということはないと言えます。

実際、リフィニッシュ後も「SURVIVEツアー」、ソロアルバム『KNOCKIN' "T" AROUND』、B'zのアルバム『Brotherhood』のレコーディング前半までメインギターとして使用され、表舞台から姿を消すのは1999年中頃にギブソン製の初代シグネチャー・モデルに移行するタイミングとなります。

その後も2002年発表のB'zのアルバム『GREEN』のレコーディングで使用されていたことが当時のファンクラブ会報に載っていますし、前述の職人さんからも「(リフィニッシュ後に)音が悪くなった印象は一切ない」と伺っています。

そう考えると音が悪くなって使用しなくなったのではなく、ギブソン社のエンドーサーとしてシグネチャー・モデルをメインに据えていたために「使用されていなかった(意識的に使用を控えていた)」のだと個人的には思います。実際、近年シグネチャー・モデルの使用頻度が下がるのと時を同じくしてメインギターに復帰していますし…。

この話題のように松本さん関連はソース不明であったりいつの間にか形を変えて違う話になってしまっている情報も多いのが現状です(公式発表されたものの中にも事実誤認や誤解を招く表現になっているケースがあります…)。特にネガティブな噂やインパクトのある表現・情報ほど拡散力が強く記憶にも残りやすいので、そういった情報は出元をよく確認したうえで判断してみると良いと思います。

おわりに

以上、個人的経験と推測も交えてまとめました。この2本は対照的な運命を辿ることになりましたが、松本さんは後年"Tak Burst"でボディ・トップがキルテッドメイプルのレスポールを復活させていて、ソフトメイプルを採用したレスポールを飛躍的に進化させて流行らせましたが、その原点は紛れもなく「J.W.モデルを所有していた」ことにあると思います。

追記】公式発表であっても十分な確認・判断を

公式発表であっても誤解を招く表現が存在する場合があることをGT #1-5283に関するコメントを例として紹介します。

一時期どういじっても良い音が出ない時期があり(『SURVIVE』の頃)その頃からほとんど使う事はありません。

出典:2003年発行 エムアールエム『music freak magazine Vol. 101』P.39

上記『music freak magazine』のコメントを再編・収録したのがTMGのシングル「OH JAPAN ~OUR TIME IS NOW~」付属冊子で、下記のように記載されていました。

『SURVIVE』(1997年)の頃に良い音が出なくなってからは、ほとんど使う事がなくなった。

出典:2004年 TMG「OH JAPAN ~OUR TIME IS NOW~」付属『TAK MATSUMOTO Guitar Book』P.8

上記2つの出典を比較すると「一時期良い音が出なかった」だけの話が「『SURVIVE』以降現在に至るまで良い音が出ない」かのように形を変えて事実と異なる内容が公式発表されているのがわかります。

加えて、この事例では『music freak magazine』のコメントでも「『SURVIVE』の頃からほとんど使う事はありません」とされていますが、前述の通り実際には「SURVIVEツアー」、ソロアルバム『KNOCKIN' "T" AROUND』、B'zのアルバム『Brotherhood』ではメイン機として使用されています。

この事例に限らず、情報は出元を確認の上、できれば当時の記事・写真・映像などを含めて総合的に判断すると良いと思います。

この他の事例としては、ある回顧録では当事者(ギターテック)があまりよく覚えていなかったり(そのためギターテックがブログでファンに情報提供を呼び掛けたこともありました)、B'z以外の事例としては海外の著名ギタリストの中には「当時は積極的に嘘をついていた」と後にご本人が語ったことで、それまで信じられてきた情報(定説)が大きく覆されたケースもあります。