【B’z機材】Tak松本ギターコレクション~Tak Burst編~

2021年5月10日発売の『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』(以下「ギターブック」)で新たに判明した内容を含めて更新しました。

今回は2001年に発表されたギブソン製のシグネチャー・モデル2号機"Gibson Custom Shop TAK Matsumoto Les Paul Tak Burst"についてまとめていきます。

これまでの専門誌、ライブ映像、そして2018年開催の「B'z 30th Year Exhibition "SCENES" 1988-2018」(以下「エキシビション」)の会場で肉眼で確認できた内容をまとめていますが、一部に個人的推測もありますので誤報もあると思いますがご容赦ください。

あらまし

写真:Gibson『ギターカタログ』2001年版 P.1

1999年発表のキャナリーイエローのモデル(以下「CY」)が好評だったため、ギブソン社から松本さんサイドに打診があり2000年9月に企画が具現化したとのことです。

松本さんはCYが強烈な個性を持った黄色のカラーリングだったこともあり今回はトラディショナルなモデルにしようと思っていたようで、そこから自身の所有する1959年製レスポールを原型とするコンセプトが出来上がり"TAK Matsumoto Les Paul Tak Burst"(以下「Tak Burst」)の開発が開始されたのことです(「トラディショナルなモデル」というのは主にカラーリングを指していると思われ、後年「よりモダンな音が出るように考えて作り上げてきました(出典:2006年発行 エイ出版社『ヴィンテージ・ギター vol.7』P.116)」と語っています)。

2001年2月に最初のプロトタイプが完成し、B'zのシングル「ultra soul」のMVで初登場しています。プロトタイプのボディ・トップには松本さん本人がギブソン社(ナッシュビル)で選んだキルテッドメイプルが使用されていて、松本さんが予定外にカスタムショップ秘蔵の木を選んでしまったのでギブソンのスタッフが大慌てしたというエピソードが伝えられています(ちなみに当初は所謂「虎目(タイガー)」でオーダーしていたとファンクラブ会報で語っています)。

その後何本かのプロトタイプ製作を経て2001年10月には市販品の完成記者発表会が行われました。市販品はカスタムショップ製とナッシュビル製(レギュラー品)、そしてエピフォン製が存在しカスタムショップ製は2001年秋頃から200本限定で販売されました。

スペックについてはCYを踏襲した仕様ながらボディ・トップがキルテッドメイプル(ソフトメイプル)になり、ネック形状およびフレットの変更、新たに開発されたピックアップ"Burstbucker New Tak Matsumoto Special"が搭載されるなどの違いがあります。

最も難航したのはピックアップの開発とのことで、あらゆる種類のマグネットと出力のサンプルが製作されたそうです。基本的な仕様はレスポールながらボディ・トップがソフトメイプルになったことで特性の違いを考慮しながら当時の松本さんが求めるサウンドを具現化するのは如何に大変だったかは想像に難くありません。

TAK Matsumoto Les Paul Tak Burst #TAK 001

写真:シンコーミュージック『GiGS』2002年11月号 P.14

上の写真は「B'z LIVE-GYM 2002 "GREEN ~GO★FIGHT★WIN~"」(以下「GREENツアー」)時に撮影されたものです。ギターテックは「なぜかキャナリーイエローのモデルは本人の手にシリアルナンバー#001が来なかったのですが、今回は手に入れる事が出来ました(出典:2003年発行 エムアールエム『music freak magazine Vol. 101』P.38)」と語っています。

これまでのメインギターだったCY と同様にロックピンとバックルガードが装着されている他、ナット交換とトラスロッドカバーがヒストリック・コレクション(以下「ヒスコレ」)と同様のものに交換されているのが確認できます。ちなみにトラスロッドカバーが交換されているのはこの”TAK 001”のみです。

入手当初は音が柔らかく感じられたそうですがナットやピックアップ、テールピース等のセッティングを詰めていくことでツアーや映像作品で聴くことができるサウンドになったとのことです。

当時の松本さんはCYのネックが太すぎると感じていたようでTak Burstはレスポールとしてはかなり薄めのネック・グリップになっていて、その後のシグネチャー・モデルを含めてもこのモデルのみの特徴となっています。そのため歴代のシグネチャー・モデルを所有する方からも持ち替えた際に違和感を感じるとの意見もあります。

CYと同様にダウンチューニングに即座に対応できるようにとの配慮でギブソン製シグネチャー弦"Tak Matsumoto Signature Strings"が使用されていて (0.10~0.52のセット)、後年ギターテックも「太い弦を使うといいですよ。(中略)同じゲージのものに変えるとローのボトム感が出ると思います(出典:『サウンド・デザイナー』2005年5月号 P.13)」と語っています。

当初は綺麗な状態でしたが2003年後半にはボディ・トップの右手を添える部分の塗装が剥がれてしまい現在に至っています。

2018年時点での状態をチェック

その後いくつかのモディファイが施されていて、最新の状態はエキシビジョンで確認することができました。

写真:プレイヤー・コーポレーション『Player』2018年6月号 P.63

上の写真はエキシビション時に撮影されたものです。外観上の変更点は以下の通りです。

  • ブリッジ交換
  • ピックアップ換装(Burstbucker New Tak Matsumoto Special→Lollar Imperial Humbucker)
  • ピックアップマウントビス(マイナスビス→プラスビス)

ブリッジはCY (TM 002)と同様の2000年代中頃の本体が最も細身でサドルの頂点が鋭角なものに交換されています。

ピックアップはボビンのスクエアウィンドウの形状と配置から"Lollar: Imperial Humbucker"に換装されています。2005年に全所有ギター写真が専門誌に掲載された際はまだTakスペシャルでしたが、2006年開催の「B'z Treasure Land」のパンフレットでは換装されているのが確認できます。この時期は何本かの"Tak Matsumoto Double Cutaway"(以下「Tak DC」)のピックアップをローラー製に換装していることから”TAK 001”も同様のモディファイが施されたと考えられます。

写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.41

また、ピックアップ換装に際してマウントビスがマイナスビスからプラスビスに交換されています。これも松本さんのギターの特徴のひとつでピックアップを換装している個体は割とプラスビスになっている傾向があります。プラスビスの方が扱いやすいですので実用的な選択だと思います。

TAK Matsumoto Les Paul Tak Burst #TAK 002

写真:『サウンド・デザイナー』2005年5月号 P.10

前述の”TAK 001”と同時に松本さんの手に渡った1本で、”TAK 001”がツアーのメインギターとして使用されたのに対して”TAK 002”はレコーディングのメインギターとして使用されました。また、”TAK 002”の方が杢目が綺麗ということもありアーティスト写真やTV出演でも多用されました。

ギターテックによると「過去の経験から1本はレコーディング用に良い状態をキープしておきたくて(出典:2003年発行 エムアールエム『music freak magazine Vol. 101』P.38)」使い分けていたとのことです。"CY (TM 002)"はレコーディング・ツアー共にメインで使用し、野外公演では何度も大雨にさらされたためその後のメンテナンスが大変だったと何かのイベントの際に伺ったことがありますので妥当な選択だと思います。

当初サウンドは”TAK 001”と大差なかったようですが2003年時点では「#002の方が倍音が明るくレンジが広く音が綺麗にまとまった感じに聴こえます(出典:2003年発行 エムアールエム『music freak magazine Vol. 101』P.38)」とコメントされています。

現在はローラー製PUに換装!

前述の”TAK 001”と同様にピックアップはフロント・リア共に"Lollar: Imperial Humbucker"に換装されています。こちらも2005年時点ではTakスペシャルでしたので”TAK 001”と同時期に換装されたと推察されます。

写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.43

TAK Matsumoto Les Paul Tak Burst #TAK 201

写真:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2002年11月号 P.57

GREENツアー時に追加で入手したギターです。基本的なスペックは同様ですが、なぜか「かなりキツイところが出てしまうギターです(出典:2003年発行 エムアールエム『music freak magazine Vol. 101』P.38)」とのことでGREENツアー後半には出番が少なくなり、終盤には使われなくなってしまったそうです。その後のツアーでは再び使用されるようになりましたので症状が改善したか、このギター使用時のサウンドの調整がうまくいくようになったと考えられます。

また、現在松本さんの手元にある市販品のTak Burstで唯一ピックアップが換装されていない個体です。

TAK Matsumoto Les Paul Tak Burst #TAK 202

写真:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2002年11月号 P.57

これもGREENツアー時に追加で入手したギターで、主に半音下げチューニング用のメインギターとして使用されました。ギターテックによると「サウンドはかなり#001に近いと思います(出典:2003年発行 エムアールエム『music freak magazine Vol. 101』P.39)」とのことです。前述のようにGREENツアーの終盤では”TAK 001”と”TAK 202”しか使われなかったそうです。

現在はピックアップがEMG製 (アクティブタイプ)に、テールピースが"GOTOH: GE101Z" (亜鉛ダイキャスト)に換装されていて、これまでは2006年開催の「B'z Treasure Land」のパンフレット内でのみ確認可能でしたが現在はギターブックでもその姿を見ることができます。また、ギターブックの写真からリフレットされています。

写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.44

TAK Matsumoto Les Paul Tak Burst #TAK 203

写真:プレイヤー・コーポレーション『Player』2005年11月号 P.154

2005年の全所有ギター紹介時に市販品として掲載されていた1本で、ボディ・トップの杢目からかつて展示会などのイベントで目にする機会があった"TAK 003"や専門誌の新製品紹介で掲載された"TAK 004"や"TAK 006"とは別物であることは当時から判明していたものの詳細不明でしたが、ギターブックでシリアルナンバーが判明しました(実は一部専門誌でB'zのアルバム『ACTION』のレコーディング機材として紹介されていたのですが、シリアルナンバーが"TM 203"と誤表記されていたことや写真が後述の”TM 2 PROTOTYPE”の使いまわしだったことから当時は確証が持てませんでした…)

前述の”TAK 202”と同様にピックアップはフロント・リア共にEMG製 (アクティブタイプ)に換装されていますが、テールピースはギブソン純正 (亜鉛ダイキャスト)のままです。

写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.44

TAK Matsumoto Les Paul Tak Burst Prototype #TM 1

写真:2006年発行 エイ出版社『ヴィンテージ・ギター vol.7』P.116

Tak Burstのプロトタイプとして後述の”TM 2 PROTOTYPE”と共に2001年2月に完成した1本で、バインディングがクリーム色であることやピックアップがCYと同様の"Burstbucker Tak Matsumoto Special"が搭載されているなど市販品との違いがあります。

当時は展示会で目にする機会のあったギターでボディ・トップには松本さんのサインが入っていましたが、2000年代後半の代理店変更に伴い中古市場に放出され一般の方の手に渡っているようです。

ちなみに近年オークションでの写真からコントロールキャビティが市販品とは違いヒスコレ準拠の深さで切削されていて、トグルスイッチまでのルーティングも市販品とは違い小さいことが判明しました。また、使用されている4つのポットも同じタイプでかつショートシャフトが使用されているようです(市販品はボリュームとトーンでポットの種類が違います)。となると同時出荷された後述の”TM 2 PROTOTYPE”も同仕様の可能性があります。

TAK Matsumoto Les Paul Tak Burst Prototype #TM 2

写真左・右上・右下:シンコーミュージック『GiGS』2001年10月号 P.9

松本さんがギブソン社を訪れた際にたまたま見つけたキルテッドメイプルがボディ・トップ材に使用されたギターで2001年2月に完成しました。B'zのシングル「ultra soul」のMVで初登場して、「B'z LIVE-GYM 2001 "ELEVEN"」(以下「ELEVENツアー」)でもメインギターの1本として使用されました。

余談ですが「ultra soul」のMV撮影に間に合わせるために前述の”TM 1”と共にナッシュビルから特別便にて緊急出荷されたそうです。

この時点で基本的なスペックはほぼ固まっていて、外観上の違いはエスカッションがヒスコレ等と同様のトールエスカッションが使用されているくらいです。当初のシグネチャー・モデルの傾向として、プロトタイプ時点ではトールエスカッションが装着されていても市販品はレギュラー品と同様のショートエスカッションが採用されていました。この傾向は2006年発売のTak DC Flame Mapleまで続きます(一部のプロトタイプは後にショートエスカッションに交換されています)。

Tak Burst開発に当たってはピックアップの選定に苦労したとのことで、この”TM 2 PROTOTYPE”は市販品に採用されたピックアップと比較して出力の低いものが搭載されているため、市販品のTak Burstよりも低音が若干軽めながら音抜けが良いとのことでELEVENツアーではポップな楽曲で使用されていました。

ちなみに市販品に採用された"Burstbucker New Tak Matsumoto Special"が完成したのは2001年9月末で記者発表会の1ヶ月前と、ギリギリまでプロトタイプのピックアップが多数製作されていたとのことです。

※木部に関しても同時出荷された前述の”TM 1 PROTOTYPE”と同仕様の可能性があるためピックアップの違いも含めて市販品のTak Burstのサウンドとはかけ離れていると思って良いかもしれません…

現在はボディ・トップにAEROSMITHのギタリスト、ジョー・ペリーのサインがあるためコレクションになっているようです。その際にネックへの負荷を考慮して弦のゲージを細めのものに(当時は0.10~0.52をメインで使用)変更されています。

TAK Matsumoto Les Paul Tak Burst Prototype #TM 3

写真左・右上・右下:シンコーミュージック『GiGS』2001年10月号 P.9

2001年4月に完成した1本でELEVENツアーでも半音下げチューニングで使用されました。前述の”TM 2”と同仕様のようですがボディ・バックおよびネックがブラウン・フィニッシュ(その他のプロトタイプおよび市販品はチェリー・フィニッシュ)であることとトラスロッドカバーがCYと同様のもの(主にレギュラー品に採用されていたタイプ、CYのトラスロッドカバーは2種類あります)を使用、そしてこの”TM 3”のみカスタムショップのデカールが貼られている点が外観上の違いです。

また「(”TM 3”は)ネック・グリップが以前よりも一回りスリムなラウンド・タイプに変更された仕様(出典:プレイヤー・コーポレーション『Player』2005年11月号 P.154)」とのことで、このネック・グリップが市販品に採用されたものなのか、それとも市販品よりもさらにスリムな形状なのか気になるところです(一般市場に放出された"TM 1 PROTOTYPE"のネック形状が判明すれば大きなヒントになりそうですね!)。

おわりに

今回は"Gibson Custom Shop TAK Matsumoto Les Paul Tak Burst"についてまとめました。鮮やかな杢目の出たキルテッドメイプルにサンバースト・フィニッシュが施されたこのモデルは伝統的なレスポールのスペックからは逸脱していますが、当時流行のモダンへヴィネス系の音楽にもマッチするとのことで似た仕様のギターが多数発売されるなど大きな影響を与えたモデルとなりました。