今回はMG-Mシリーズの松本さん本人仕様と市販品の違いついてまとめていきます。
これまでの専門誌、ライブ映像、2018年開催の「B'z 30th Year Exhibition "SCENES" 1988-2018」の会場で肉眼で確認できた内容、そして2021年5月10日発売の『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』(以下「ギターブック」)の内容をもとにまとめていますが、一部に個人的推測もありますので誤報もあると思いますがご容赦ください。
なお、記事中の「1号機」「2号機」という表現は便宜上のもので松本さんおよびギターテックが語ったものではないことをご了承ください(専門誌では何度かそう呼ばれたことがあります)。
目次
本人仕様一覧
今回検証するのはMG-M 1号機、MG-MII (MG-M2) 2号機、MG-MIIG (MG-M2G) 2号機の3本です。いずれの個体もギターブックに掲載されていますので全形の写真はそちらをご確認ください。
写真左:ヤマハ『ギターカタログ』1991年版 P.32
写真中央:プレイヤー・コーポレーション『Player』2018年6月号 P.65
写真右:シンコーミュージック『GiGS』1993年1月号 P.14
まず各モデルの本人仕様一覧です。白文字は市販品の仕様、赤文字は本人仕様(便宜上プロトタイプと表記)を表しています。
ボディ形状
写真左・中央:ヤマハ『ギターカタログ』1991年版 P.32
写真右:シンコーミュージック『GiGS』1993年1月号 P.14
ボディ形状を比較するとMG-MII 2号機とMG-MIIG 2号機はMG-M 1号機よりも全体的にふくよかなシェイプをしていて、特に左側のホーンの太さが明らかに違うのがわかると思います(「市販のMG-M、MG-MII、MG-MIIG」はMG-M 1号機と同形状です)。
ボディ材
ボディ材については「本人はバスウッド、アルダー、マホガニーと3種類あってチェックしているんです(出典:シンコーミュージック『GiGS』1991年7月号 P.10)」とヤマハの開発者の方が語っていることや当時の松本さんは軽いギターを好んでいたことからいずれの個体もバスウッドまたはアルダーが有力だと思います。
ネックジョイント位置・パーツ配置
写真左・中央:ヤマハ『ギターカタログ』1992年版 P.21
写真右:シンコーミュージック『GiGS』1993年1月号 P.14
比較しやすいように右側カッタウェイとフロントピックアップ上部に白点線を入れました。
ネックのジョイント位置は右側カッタウェイに対して「市販のMG-MIIG (MG-MII)」が22フレット付近、MG-MII 2号機とMG-MIIG 2号機は21フレット付近でおよそ1フレット分違います。そのためパーツ配置が全体的にボディエンド寄りになっています。
写真:ヤマハ『ギターカタログ』1992年版 P.21
MG-MII 2号機に「市販のMG-MIIG」を重ねてみました。各パーツ同士の位置関係は変わりませんが、ネックジョイント位置の違いに伴いパーツ配置を全体的に平行移動させているのが分かると思います(MG-MIIG 2号機も同様です)。
ネックジョイント形状
写真左:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.115
写真中央:前掲書 P.114
写真右:前掲書 P.116
MG-MII 2号機とMG-MIIG 2号機はボディ上端の傾斜が鋭利でジョイント面積が広めに取られていて、ジョイントプレートが2枚とも短いタイプが使用されています(市販品はヘッド寄りのプレートが長いタイプ)。
詳細は不明ですが「市販のMG-MII (MG-MIIG)」は激しくアーミングするとジョイント部が"ピキッ"と音を立てることがあって若干グラつく印象があり、他のデタッチャブルタイプのギターと比較してジョイントが弱い気がします(例えば"MUSIC MAN: EVH"などは5点止めかつ広い面積でしっかりジョイントされていてグラつく印象はありません)。
コントロールキャビティ形状
写真左:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.111
写真中央:前掲書 P.114
写真右:前掲書 P.116
ここは分かりやすいですね、MG-M 1号機のみ市販品と同形状です。ちなみに最初に製作されたプロトタイプ"T's TOYS"も市販品とは違う形状であることがギターブックで判明しました。
ピックアップ
MG-M 1号機
1. 完成当初
写真:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』1989年5月号 P.181
松本さんが語ったところでは完成当初のピックアップは「"FOCUS"-SH1T (セラミック)」とのことで、上の写真のようにスクエアウインドウありのボビンに外周のアセテートテープがきちんと一周しているなどの特徴が一致することから市販品と同様と考えて良さそうです(当時のヤマハのピックアップ・ラインナップは非常に少ないことと品番ごとに外観上の特徴があるため判別可能)。
2. 「B'z LIVE-GYM "BREAK THROUGH"」期 ~ 現在
写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.110
当時のヤマハのギターのラインナップを見ていくとほとんどのギターでフロント・リア共に同じピックアップが搭載されていますが、フロントの音に拘りを見せる松本さんのMG-M 1号機は「紫のMG-MIIプロトタイプ 」から標準搭載されたフロント専用・リア専用のピックアップにそれぞれ換装されていて、フロントが"YH-16"、リアが"YH-18"です(見分け方はボビンにスクエアウインドウがないことがわかりやすいと思います。品番は下記スペックシートを参照してください)。
写真:シンコーミュージック『少年ギター1993』P.4
このフロント専用ピックアップの開発経緯についてヤマハ開発者の方が専門誌のインタビューで語っています。
フロントとリアの区別のないP.U.の場合、フロントに付けるとブーミーになっちゃうんです。その点、付けたP.U.はハムバッキングでありながらクリアーな音を出す為に巻き線の仕様を変更したり、松本さんや北島健二さんの意見をきいて作ったP.U.なんです。
出典:シンコーミュージック『GiGS』1991年7月号 P.10
⇒2023/05/29更新
当時の別の専門誌に北島健二氏のシグネチャー・モデル"KK-I"のご本人使用機にはフロントに"YH-16"、リアに"YH-18"が搭載されていることが記載されていて、上述のヤマハ開発者の方のインタビューと完全に一致します。
MG-MII 2号機
写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.114
現在のMG-M 1号機と同様にフロント・リア共にヤマハ製でフロントが"YH-16"、リアが"YH-18"で、現在に至るまで換装歴が無い数少ない個体です。
市販のMG-MIIはフロント・リア共に「"FOCUS"-SH1T (セラミック)」が搭載されています。
MG-MIIG 2号機
1. 「B'z LIVE-GYM Pleasure '91」期
(注)写真は同仕様のPUを搭載したMG-MIIG 1号機
写真:シンコーミュージック『GiGS』1991年7月号 P.11
完成当初はフロント・リア共にヤマハ製でフロントが"YH-16"、リアが"YH-18"が搭載されていました。
市販のMG-MIIGはフロント・リア共に「"LIVE"-GH1 (アルニコ5)」が搭載されています。
※カタログ上は「"LIVE"-GH1 (アルニコ5)」ですが、実際には1992年頃から「"FOCUS"-SH1T (セラミック)」にこっそり仕様変更されています。
見分け方はボビンのスクエアウィンドウの大きさ、外周のアセテートテープの巻き方、そしてボビンの高さの3点です。
2. 「B'z LIVE-GYM '91~'92 "IN THE LIFE"」期
写真:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』1992年1月号 P.135
フロント・リア共に12個のアジャスタブル・ポールピースでボビンが艶消しの黒いピックアップに換装されていました。
当時のヤマハのピックアップ・ラインナップと松本さん本人仕様は基本的にフロントとリアで特性の違うピックアップを搭載していたことに鑑みるとヤマハOEMのディマジオ製で、フロントが"YGDH-1B (PAF Pro)"、リアが"YGDH-2B (FRED)"が有力ではないかと思います。
ちなみにこの組み合わせは同時期に販売されていた"PACIFICA Custom"やFREDユーザーの代表格と言えるジョー・サトリアーニのアイバニーズ製シグネチャー・モデルでも採用されています。
写真:1993年発行 ヤマハ『パシフィカ・カタログ』P.10
3. 「B'z LIVE-GYM Pleasure '92 "TIME"」期 ~ 現在
写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.116
フロント・リア共に標準的な6個のアジャスタブル・ポールピースのモデルに換装されていてボビンが艶消しの黒であることから、フロント・リア共にディマジオ製でフロントが"PAF"、リアが"The Tone Zone"が有力ではないかと思います。
フロントは向かってボビン右端に小さな穴が確認できることから該当するのは「初期型のPAF」のみで、換装された1992年時点のラインナップで一般的なポールピースが採用されていたのはこの2品番のみです("Norton"は1994年発売なので非該当)。
また、この頃から5点式ピックアップセレクターのビスが黒のプラスビスから銀色のマイナスビスに変更されていることから恐らくCRL製に交換されていると考えられます。
写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.116
センターピックアップは換装済?
写真左上:ヤマハ『ギターカタログ』1991年版 P.32
写真右上:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.114
写真左下・右下:前掲書 P.116
MG-MII 2号機とMG-MIIG 2号機のセンターピックアップはどちらもヤマハ製ですが市販品とはホット (白線)とアースの取り出しが左右逆になっていて、別品番に換装の可能性やあるいは単純に位相を反転させていると推察されます(いずれの場合でもハーフトーン時のノイズキャンセル目的で「逆巻き・逆磁極」は維持されていると考えて良いと思います)。
ブリッジ
写真左:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.114
写真右:前掲書 P.116
MG-MII 2号機は市販品と同様に「Rockin' Magic-Pro II(以下『RM-PRO2』)」が搭載されていて、MG-MIIG 2号機は完成当初は"RM-PRO2"でしたがメイン機を退いた後に"RM-PRO3"に換装されて現在に至ります。
また、キャビティサイズに違いがあり、MG-MII 2号機は市販品と同様のサイズなので弦固定スクリューが長い"RM-PRO3"を無加工で装着できない場合があります(オクターブ調整の可動域が狭くなるため)。
もう一点、MG-MIIG 2号機はキャビティに緩衝材が貼られているため、ここだけ黒の色味が違うのがわかります。当時一部の上位機種で緩衝材が貼られているのを確認していますのでこの点からも本人仕様は上位機種相当で製作されていると言えると思います。
ちなみにMG-MIIG 2号機を含めて松本さん本人仕様で"RM-PRO3"が搭載されている個体はアームバーがフロイドローズ・オリジナルに換装されています。詳細は下記記事を参照してください

RM-PRO2とRM-PRO3は材質が違う!
上の表のように"RM-PRO2"と"RM-PRO3"はサドルとサスティーンブロックの材質に違いがあります(参考としてフロイドローズ・オリジナルの材質も載せています)。
材質よってサウンドにも違いがあり、"MG-MIII Custom"紹介時の専門誌では「IIがソリッドブラスだったのに対して、IIIはスチールになり、音の立ち上がりが良くなり、音質もよりソリッドになった(出典:シンコーミュージック『GiGS』1993年11月号 P.165)」と記載されていました。
私自身も"RM-PRO2"と"RM-PRO3"の両方を所有していて比較した経験があり、個人的には"RM-PRO2"と"RM-PRO3"は優劣ではなく狙っているサウンドの方向性で選択した方が良い結果が得られると感じています。大まかには"RM-PRO3"の方がやや硬めで高域寄りのサウンドにシフトする印象です。
余談ですがB'zファンにも人気の"MUSIC MAN: EVH"のサスティーンブロックはミュージックマン社の要望で販売開始当初はスチール製が採用されていましたが「やはり音が硬くなってしまったので、ブラス製に変更されることになった(出典:2012年発行 シンコーミュージック『ザ・ギターマン 特集●EVHギターズ[増補改訂版]』P.134)」経緯があります。
⇒2021/09/20更新
"RM-PRO2"と"RM-PRO3"の違いを下記記事にまとめました。

バックプレート落とし込み・位置
写真左:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.114
写真右:前掲書 P.116
MG-MIIG 2号機は市販品とは違いスプリングキャビティのバックプレートが落とし込まれています。ちなみに落とし込み用のバックプレートは縦横比や弦を通すスリットの位置・寸法も市販品とは違います。ここは落とし込みがある他のヤマハ製ギターの仕様を踏襲しているようです。
またバックプレート取り付け位置が違いますが、MG-MII 2号機は市販品と同様に落とし込みがないためバックプレート形状の違いから固定位置に差があると推察されます(個人的に両方のプレートを所有していて、前述のように縦横比や弦を通すスリットの位置・寸法に違いがあるのを確認しています)。
あと、MG-MIIG 2号機に搭載しているRM-PRO3のサスティーンブロックは落とし込まれたバックプレートとの干渉を避けるために短いタイプが採用されていると推察されます(長いタイプだと弦高調整が制限されるなど調整がシビアです)。
※筆者所有品
ポジションマーク
写真左:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.110
写真中央:前掲書 P.114
写真右:前掲書 P.116
MG-M 1号機のみ市販品と同様のサイズでMG-MII 2号機とMG-MIIG 2号機は市販品より一回り大きいサイズのポジションマークが埋め込まれています。
ちなみにMG-M販売開始時に松本さんは専門誌の連載にて「ジムダンロップのすこし太めのフレットが打ってあります(出典:プレイヤー・コーポレーション『Player』1989年6月号 P.227)」と語っていましたが、写真を見る限りMG-M 1号機のフレットは「市販のMG-M」と同様に国産品だと思います(当時のヤマハの一部上位機種では「ジムダンロップのジャンボフレット#6100」が採用されていて、その場合には明確にカタログに記載されています。)。ギターブックの写真を比較すると"T's TOYS"をはじめ本人仕様のフレットは市販品とは違うようです。
トラスロッドカバー、ヘッド形状
写真左・右:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.117
写真中央:前掲書 P.114
トラスロッドカバーはMG-Mのみ市販品と同様で(写真は未掲載)、MG-MII 2号機は写真では分かりにくいですが全長が短く固定ビスは1本です(通常はビス3本で固定)。MG-MIIG 2号機は上から黒/白の2プライで、白い部分がメイプルの色味と近く遠目にはほとんどわからないため横幅がやや狭く見え、形状も市販品と比較してシャープなのがわかります。
また市販品の6弦ペグを基準に線を引くとMG-MII 2号機、MG-MIIG 2号機共にストリングリテイナー取付け位置やロックナットと6弦ペグ間距離がいずれも違っている他、ヘッド長やヘッド先端の丸みに違いがあるなど本人仕様では複数のヘッド形状が用意されていたことがわかります。
ロックナット
写真上:ヤマハ『ギターカタログ』1992年版 P.21
写真下:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.114
ロックナットはオリジナルはヤマハ独自規格 (4mm径)ですがMG-MII 2号機は「B'z LIVE-GYM Pleasure 2008 -GLORY DAYS-」で使用された際には1993年頃に仕様変更された汎用規格 (3mm径)に交換されています。
また、MG-MIIG 2号機は2005年の全所有ギター紹介時点で外されていて現在に至ります。
ペグ
写真左:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.111
写真中央:前掲書 P.114
写真右:前掲書 P.117
写真では分かりにくいのですがMG-M 1号機、MG-MII 2号機は市販品と同様のGOTOH刻印入りのゴトー製ペグ、MG-MIIG 2号機のペグはYAMAHA刻印入りのゴトー製ペグが使用されていますす。
MG-M 1号機のペグはペグボタンからのビス頭の飛び出し具合が違っていて「市販のMG-M」でも当初はこのタイプが使用されていますが、90年頃からビス頭の飛び出していないタイプに変更されています。
ちなみにYAMAHA刻印入りのペグは比較的上位機種の市販品でも使用されていて、MG-Mシリーズではほとんどすべてのプロトタイプ(MG-MIII Customを含む)で使用されています。
参考までに市販品に使用されているGOTOH刻印入りのペグとYAMAHA刻印入りペグの写真を掲載します。刻印以外の違いはペグ本体とペグボタンの間のワッシャーの材質とペグボタンの厚みです。
※筆者所有品
おわりに
今回はMG-Mシリーズの松本さん本人仕様と市販品の違いついてまとめました。
ギターブックで判明したようにMG-M 1号機はピックアップ以外はほぼ市販品と言えるのが意外でしたが、MG-MII 2号機とMG-MIIG 2号機はほとんど別物なのが改めて確認できると思います。