今回は松本さんがこれまで使用してきたワウ(ペダルタイプ、コンパクトエフェクタータイプ)について"JEN: CRY BABY SUPER"から"FAT: 206W"までまとめていきます。
これまでの専門誌、ライブ映像をもとに使用開始時期順に見ていきたいと思います。
目次
JEN: CRY BABY SUPER
写真:シンコーミュージック『GiGS』1995年3月号 P.23
B'zのアルバム『OFF THE LOCK』から使用し始めた1970年代~1980年代製のワウ・ペダルで、松本さんが最も影響を受けたと公言するギタリスト、マイケル・シェンカーが使用していたことで知られる、現在でも人気の高いヴィンテージ・ワウのひとつです。
1990年代までの初期B'zサウンドを形成していたロックマン製品 (サスティナー、XPR)の歪みサウンドとの相性が非常に良く、後年ギターテックが「Wahは、どうしてもJENのサウンドを超えるものが見つかりませんでした(出典:Keihinjima234ブログ『TUNING ROOM』2012年2月24日記事)」と語っています。
当初はさほど所有していなかったようですが「B'z LIVE-GYM '91~'92 "IN THE LIFE"」頃からツアー用だけではなくツアーのバックアップ用やレコーディング用と増えていったようで、専門誌の写真からツアー用だけでも4、5台確認できます。
大まかに2種類存在!松本さんはどちらも使用!
※筆者所有機
"CRY BABY SUPER"は製造時期によって「babyの『bの縦線』の長さ」に違いがあり、またワウ・サウンド形成に大きく影響するインダクターにも違いがあることが知られています(FASEL製はケースの色によってサウンドの傾向が違うようです。厳密にはトランジスタの品番が違う他、コンデンサーに至っては多様な品番が確認されています)。
余談ですがジム・ダンロップ社の開発者の方がワウ・サウンドに及ぼす影響の大きさとして「インダクター、トランジスタ、コンデンサ、ポット、レジスターの順(出典:2014年発行 シンコーミュージック『The EFFECTOR BOOK Vol.24』P.22)」と語っています。
松本さんは両方のタイプを使用していたことが確認されていて、上の写真左側のタイプは「B'z LIVE-GYM '94 "The 9th Blues" ~Part 2~」や「B'z LIVE-GYM Pleasure '95 "BUZZ!!"」時の専門誌の写真で、写真右側のタイプは「B'z LIVE-GYM Pleasure '91」時のファンクラブ限定写真集『DAYS IN THE PLEASURE』で見ることができます。
ちなみに一般的にインダクターの色は上の写真左側のタイプは主に赤または白、右側のタイプは白、緑、橙、黄が存在するようで、インダクターの色によるサウンドの違いを検証した動画も存在しますので興味のある方は検索してみてください(私自身も赤、白、緑、橙を所有していますが、どれもサウンドが違います)。
BUDDA: BUD-WAH
写真:立東社『ロッキンf』1996年11月号 P.197
初登場は「ROCK'N ROLL STANDARD CLUB BAND」ツアーで、後にギターテックが「これがいちばんふつうっぽい(出典:立東社『ロッキンf』1999年6月号 P.30)」と語ったことがあり、前述のジェン製クライベイビーと比較するとマイルドな印象のあるワウ・ペダルです。
意外と知られていませんが上の写真のように初期は一般的な黒筐体が採用されていて後に特徴的な紫筐体に変更されています。ちなみに2000年代にはレコーディング機材紹介で何度か黒筐体のモデルの写真が掲載されています。当時の広告を載せておきます。
写真:リットーミュージック『ギター・マガジン』1996年11月号内広告
当初からモディファイして使用!
写真:リットーミュージック『ギター・マガジン』2010年7月号 P.23
このワウに関してはモディファイしていることが公表されていて「トーン・カーブが、高域に行き過ぎないように少し改造しています(出典:立東社『ロッキンf』1999年6月号 P.30)」「ポットとゲインを微調整(出典:シンコーミュージック『GiGS』2006年11月号 P.59)」「効果の可変幅が広げられている(出典:プレイヤー・コーポレーション『Player』2012年3月号 P.38)」のようにその時々で松本さんの好みにマッチするモディファイが施されていたと推察されます。
またペダルの外観は最終的には上の写真のようにモディファイされていて、筐体前面に貼られていたブッダのプレートが外され、代わって当時のFATロゴ・マークが取り付けられているのが確認されています。
Real McCoy Custom III by TEESE (RMC-3)
写真:シンコーミュージック『GiGS』1997年9月号 P.33
「B'z LIVE-GYM Pleasure '97 "FIREBALL"」で使用されたワウ・ペダルで、複数の半固定抵抗器と9連ディップスイッチを駆使して様々なワウ・サウンドを再現できるのが特徴とのことです。
⇒2022/02/12更新
このツアー以降で使用が公表された事例は見当たらないようですが「Buddaよりエグイ効果が欲しい時にたまに使います(出典:2003年発行 エムアールエム『music freak magazine Vol. 99』P.53)」とのことです。
Guyatone: STEVIE SALAS WAH ROCKER (SWR2)
写真:シンコーミュージック『GiGS』1997年9月号 P.33
初登場は「B'z LIVE-GYM Pleasure '97 "FIREBALL"」で、単体製品としてはこのツアーやB'zのアルバム『SURVIVE』など使用事例は少ないですが機能は後述の"CHIBA WAH"に引き継がれています。
松本さんが歴代使用してきたワウの中で唯一のオート・ワウで、高域が強調された特徴的なサウンドが同ツアーの「GIMME YOUR LOVE -不屈のLOVE DRIVER-」のCD音源や映像作品で聴くことができます。
CUSTOM AUDIO JAPAN: CHIBA WAH
写真:立東社『ロッキンf 』1998年8月号 P.21
初登場は「B'z LIVE-GYM '98 "SURVIVE"」で、ペダル・ワウとオート・ワウを一つのケースに収めたもので、中身は前述の"BUDDA: BUD-WAH"と"Guyatone: STEVIE SALAS WAH ROCKER (SWR2)"です。
所謂「フィックスド・ワウ」で、ライブでペダル・ワウ使用時の配線引き回しによるノイズやライブ進行に伴って発生するベスト・スポットからのずれなどの対策として、また目視でベスト・スポットを設定できるなどのメリットから製作され、現在はFAT製に引き継がれ幾度かの仕様変更を伴いながらも半固定ワウ・サウンド形成に使用されています。
上の写真ではわかりにくいですが洒落で半固定ワウが「免停 WAH」、オート・ワウが「限定解除 WAH」とラベル表記されています。
ちなみにこの"CHIBA WAH"は後に黒筐体で"Twin Wah Box"として極少数販売されていて、こちらは普通に"Wah"、"Auto Wah"表記に変更されています(当時現物を見に行きました)。
CUSTOM AUDIO JAPAN: CHIBA 2K WAH
写真:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2002年11月号 P.58
初登場は「B'z LIVE-GYM Pleasure 2000 -juice-」で、前述の"CHIBA WAH"からオート・ワウを外したフィックスド・ワウ専用機で中身は"BUDDA: BUD-WAH"です。比較的長く使用されていて「B'z SHOWCASE 2003 "IT'S SHOWCASE!!"」のリハーサルまで使用していたのが確認されています。
FAT: FIXED WAH
写真:シンコーミュージック『GiGS』2005年1月号 P.15
初登場は2003年6月26日の「B'z SHOWCASE 2003 "IT'S SHOWCASE!!"」で「なにかのきっかけで久し振りに使用したJENのサウンドが良かった(出典:Keihinjima234ブログ『TUNING ROOM』2012年2月24日記事)」ので「あの当時のJENの半止めサウンドになるべく近づける(出典:Keihinjima234ブログ『TUNING ROOM』2012年2月24日記事)」をテーマに開発された初のFAT製フィックスド・ワウです。
この「なにかのきっかけ」というのは恐らくB'zのアルバム『BIG MACHINE』のレコーディングを指していて、当時の専門誌の機材紹介では確かに"Jen Wah"と記載されています。
開発当初は「基板にハンドワイヤリングで組んでいた(出典:Keihinjima234ブログ『TUNING ROOM』2012年2月24日記事)」そうで「B'z LIVE-GYM 2003 The Final Pleasure "IT'S SHOWTIME!!"」で使用されていた「Ver.3」表記のプロトタイプが恐らくそうではないかとのことです(上の写真参照)。
写真:Keihinjima234ブログ『TUNING ROOM』2012年2月24日記事
その後プリント基板に変更された製品版が「B'z LIVE-GYM 2003 "BIG MACHINE"」から使用されているのが確認でき(上の写真は別の時期のもの)、2004年には極少数販売されましたが、そのうちの一台は現在私の手元にあります。
後のFAT製フィックスド・ワウのラインナップと比較するとエグみが強くて確かにジェン製クライベイビーを彷彿とさせるサウンドで、個人的には最も好みのフィックスド・ワウです。
また前述の"CHIBA WAH"、"CHIBA 2K WAH"と比較するとノブの設定ポイントが大きく違う("CHIBA WAH"は3時方向、"FIXED WAH"は11時方向)ことがわかり、このことからもそれぞれの製品の特性が明確に違うことが表れていると思います。
FAT: 206W
写真:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2010年5月号 P.9
初登場は「B'z LIVE-GYM 2006 "MONSTER'S GARAGE"」(以下「MONSTER'S GARAGEツアー」)で、前述の"FAT: FIXED WAH"(以下「初代"FIXED WAH"」)のバックアップが必要になったことや(製品版は1台しか手元に残していなかったそうです…)ファンの方々からの要望もあり製作されることになったとのことで、2006年に数量限定で販売されました。
"206W"は初代"FIXED WAH"で使用されていた「あるパーツ」が入手困難になってしまったことから「今手に入るパーツで可能な限り納得いくものを作り上げる…(出典:Keihinjima234ブログ『TUNING ROOM』2012年2月24日記事)」をテーマに誕生したフィックスド・ワウで、この2製品の中身を比較すると全く同じ基盤(リビジョン)が採用されていて、明確な違いが見られるのは「あるパーツ」のみと言えます。
初代"FIXED WAH"のコンセプトを踏襲した製品ということもあって状況に応じて使い分けていたとのことで、MONSTER'S GARAGEツアーではメインステージ、サブステージ共に"206W"が使用されていましたが「B'z LIVE-GYM 2010 "Ain't No Magic"」ではメインステージでは"206W"が、フライングステージでは初代"FIXED WAH"が使用されていたのが確認できます。
おわりに
今回は松本さんがこれまで使用してきたワウについて"FAT: 206W"までまとめました。次回はジム・ダンロップ社の日本人初シグネチャー・モデルとなった"TM95 TAK MATSUMOTO CRY BABY WAH WAH"以降についてまとめていきます。