2021年5月10日発売の『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』(以下「ギターブック」)で新たに判明した内容を含めて更新しました。
今回は3作目のシグネチャー・モデルとなる「Gibson Custom Shop TAK Matsumoto Double Cutaway」(以下「Tak DC」)について、本数が多いので3回に渡ってまとめていきます。
これまでの専門誌、ライブ映像、そして2018年開催の「B'z 30th Year Exhibition "SCENES" 1988-2018」(以下「エキシビション」)の会場で肉眼で確認できた内容をまとめていますが、一部に個人的推測もありますので誤報もあると思いますがご容赦ください。


目次
あらまし
写真:リットーミュージック『ギター・マガジン』2005年4月号内広告
松本さんによると「もともとは、レスポール以外にオリジナル・シェイプのギターをギブソンが創ってくれたらすごいなってふうに考えていたんです。それでダメもとで言ってみた(出典:シンコーミュージック『GiGS』2004年8月号 P.18)」というのがTak DC開発の発端とのことです。
1999年発表のキャナリーイエロー(以下「CY」)と2001年発表のTak Burstは2本ともレスポールを基にしたシグネチャー・モデルで、ヴィンテージのレスポールも所有する松本さんにとってはこれ以上レスポールをいじりようがないと考えていたそうで、そこから「もっと機能性を考慮した、全く新しいモデルを作りたいと思ったんです(出典:プレイヤー・コーポレーション『Player』2005年11月号 P.162)」と語っています。結果的に最も重視したのはハイポジションの演奏性を良くすることでした。
今回も1年半という長期にわたる開発が行われ、2004年末に発表されましたが諸々の事情により出荷は2005年2月頃となっています。キルテッドメイプル・トップにブラウン・サンバーストの初代Tak DCはレギュラーラインでの発売が無く、カスタムショップ製のモデルがSpecial Edition(150本限定)と2nd Editionで発売されました。
※2nd Editionはフライトケースや認定証など付属品の違いのみとされていますが、実際にはギター本体にも違いがあり、Special Editionの後期ロットからコントロールキャビティのサイズが変更されています。
TAK Matsumoto Double Cutaway (Version 1)
写真左:シンコーミュージック『GiGS』2004年8月号 P.18
写真中央・右:シンコーミュージック『GiGS』2004年8月号 P.19
ギブソン社が松本さんの提案を受けた頃、ちょうど新しいダブル・カッタウェイのモデルを開発していたこともあってすぐにプロトタイプを製作し、2003年8月に「B'z LIVE-GYM The Final Pleasure "IT'S SHOWTIME!!"」の長野公演のリハーサル中に松本さんのもとに届けられたのが”Version 1”です。
余談ですが、一部に松本さんがポール・リード・スミスを気に入っていて、慌てたギブソン社がダブル・カッタウェイを作ったという噂がありましたが、確かにボディ・シェイプは似ていますがサウンドはともかくトグルスイッチやノブの位置など機能性に拘る松本さんがポール・リード・スミスをメインギターに起用するのはかなり疑問が残ります(特にトグルスイッチの位置)。
また「どこかの記事で読んだ」といったコメントも一部で見られますが、少なくとも専門誌・ファンクラブ会報などの主要媒体にはそのようなインタビュー記事は存在しませんし、仮にそのような発言があったとしてもギブソン社とエンドースしている状況でそのような記事が出ることは考えにくいです(関係者からストップがかかると思います)。松本さん関連は出元不明の情報も多いので出元を十分確認の上で判断する必要があります。
写真右側はレスポールとTak DCを重ねて比較したものです。パーツ配置はレスポールと同一ですがコントロール・ノブがリア・ピックアップに近くなっているのが分かります。
この時点で2ボリューム・1トーン、トグルスイッチの位置、オープン・ゼブラのピックアップといった基本仕様は完成されていますが、”Version 1”は「ダブル・カッタウェイということで、ありもののボディで作ってきたんですよ。キルテッド・メイプル張って。だけどボディがすごい薄くて、音がすごく細かった(出典:プレイヤー・コーポレーション『Player』2004年8月号 P.47)」とのことで松本さんからのリクエストで”Version 2”が製作されることになります。
ちなみにTak Burstの時と同様にプロトタイプのエスカッションはトールタイプが採用されています。
上の写真ではボディ・トップに松本さんのサインがありますが、2000年代後半の代理店変更に伴いサインが消された状態で中古市場に放出され一般の方の手に渡っているようです。ちなみに”Version 1”は全部で3本製作されたとのことです。
TAK Matsumoto Double Cutaway (Version 2) #TAK 4
写真左:シンコーミュージック『GiGS』2004年8月号 P.18
写真右:シンコーミュージック『GiGS』2004年8月号 P.19
「音の線が細い」のを改善するために”Version 1”よりもボディが約6mm厚くなった(37.3mm→43.5mm、写真右側参照)のが”Version 2”で2003年12月23日に松本さんのもとに届けられたギターです。翌日の「B'z LIVE-GYM 2003 "BIG MACHINE"」東京ドーム公演で突如ファンの前に姿を現して大きな話題となりました。
シリアルナンバーは”TAK 4”で、この時点でプラスチック・パーツが黒に変更され、ほぼ完成形となっています。
このギターは松本さんのソロ・プロジェクト、TAK MATSUMOTO GROUP(以下「TMG」)のシングル「OH JAPAN ~OUR TIME IS NOW~」のジャケット写真やアルバム『TMG I』のレコーディングでも使用されました。
そして、そこでの結果をもとに再度松本さんのリクエストで”Version 3”が製作されることになります。
アンバー色(TAK 6)は「OCEAN」のMVで使用
”Version 2”は前述の"TAK 4"を含めて3本確認されていて、そのうちの1本はB'zのシングル「OCEAN」のMVで使用されたアンバー色のものです。
シリアルナンバー:TAK 5
シリアルナンバー:TAK 6
写真:プレイヤー・コーポレーション『Player』 2005年11月号 P.153
TAK Matsumoto Double Cutaway (Version 3) #TAK X2X PROTOTYPE
写真左:シンコーミュージック『GiGS』2004年8月号 P.19
写真右:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2006年10月号 P.10
ほぼ完成形の”Version 2”のネックを太めのネックに変更したのが”Version 3”で、シリアルナンバーは”TAK X2X PROTOTYPE”です。
ダブル・カッタウェイの構造上レスポールと比較してボディが軽く、またボディとネックの接合面積が少ないためどうしても低音が不足してしまうのを補うために”Version 2”のネック(Tak Burstと同様)を1フレット付近はそのままに、12フレット付近を厚めにしたとのことです。
また、ヘッドにはついに”Tak Matsumoto”の文字が入れられました。
TMGの「Dodge The Bullet」ツアーではメインギターとして使用されたのをはじめ、B'zのアルバム『THE CIRCLE』のレコーディングまでほぼオリジナル状態で使用されましたが「B'z LIVE-GYM 2006 "MONSTER'S GARAGE"」(以下「MONSTER'S GARAGEツアー」)ではEMG製ピックアップに換装されているのが映像作品などで確認できます。
現在はサスティナーを搭載!
ギターブックの写真から現在はサスティナーが搭載されていて、それに伴いリアピックアップも換装されています。
写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.50
TAK Matsumoto Double Cutaway (Version 3) #TAK X1X PROTOTYPE
写真左:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2005年11月号 P.23
写真右:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2006年10月号 P.10
前述のシリアルナンバー”TAK X2X PROTOTYPE”と同時期に製作された”Version 3”でシリアルナンバーは”TAK X1X PROTOTYPE”です。
「B'z LIVE-GYM 2005 "CIRCLE OF ROCK"」(以下「CIRCLE OF ROCKツアー」)ではナット以外はオリジナルの状態でしたが、MONSTER'S GARAGEツアー時にはピックアップが"Lollar: Imperial Humbucker"に換装されていて、同ツアーでは半音下げチューニング用のメインギターとして使用されました(どちらも同じリバースゼブラ・ボビンですが、下の写真のようにローラー製(初期型)はスクエアウインドウの配置が違います)。
写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.47
TAK Matsumoto Double Cutaway #TM 5001
写真:リットーミュージック『ギター・マガジン』2008年11月号 P.76
CIRCLE OF ROCKツアーで初登場した市販品のシリアルナンバー1番で、杢目の細かいキルテッドメイプルが印象的でエキシビションでも展示されました。
基本的なスペックはTak Burstを踏襲していますが、ピックアップのゼブラ柄がこれまでとは逆になり(アジャスタブル・ポールピース側が黒)、ネック・シェイプが”TAK Special Grip #2”と名付けられた一回り太めのものを採用しています。
カラーリングがプロトタイプと比較してやや濃い茶色になりましたが、市販品の中にはカラーリングがプロトタイプに近い薄い茶色のものも存在しました。またエスカッションはこれまでのシグネチャー・モデルと同様にショートタイプが採用されています。
当初はナットを交換している以外は(外観上は)オリジナルでしたが、「B'z LIVE-GYM Pleasure 2008 -GLORY DAYS-」の頃にはリフレットされています(エキシビジョンで確認済)。
写真:2021年発行 リットーミュージック『TAK MATSUMOTO GUITAR BOOK』P.51
TAK Matsumoto Double Cutaway #TM 5002
写真左:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2005年11月号 P.23
写真右:シンコーミュージック『YOUNG GUITAR』2006年10月号 P.10
これもCIRCLE OF ROCKツアーで初登場した1本で、こちらは大柄な杢目のキルテッドメイプルが採用されています。
当初は前述の”TM 5001”と同様のスペックでしたがB'zのシングル「衝動」のMVではピックアップが"Lollar: Imperial Humbucker"に換装されているのが確認できます。それに伴ってピックアップのゼブラ柄がアジャスタブル・ポールピース側が白になっています。
⇒2021/02/02更新
現在は2007年にB'zとして殿堂入りした「Hollywood's RockWalk(ハリウッド・ロック・ウォーク)」があるギターセンター・ストアに展示されています。
おわりに
今回は初代"Gibson Custom Shop TAK Matsumoto Double Cutaway"についてまとめました。これ以降レコーディング・ツアー共に「ほぼTak DCのみ」という時代が長く続きます。
次回はTak DC Flame Top (Cherry)以降についてまとめていきます。